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ダービー サテュロスの壺(1770年代初期)
A Derby Satyr Bottle Early 1770s
ダービーのトルコブルー地に丸い胴体と細長い首を持つ壺。両脇に取っ手としてサテュロス(Satyr)の頭部が付けられている。上部に伸びた各2本の角が内側に曲がって、首中央部の輪の内側に差し込まれている。壺の肩とサテュロス頭部周辺には葡萄の房と葉が取り付けられている。この壺はゴールドアンカー期のチェルシーで作られていたものが、1770年のダービーによるチェルシー買収以降も継続して作られたものである。1770年2月のニコラス・スプリモント経営下チェルシー最後のオークションで、以下のようにこの形の壺(Satyr bottle)が販売されている。
Day 1 Lot 75
75 One satyr bottle of the mazarine blue, embellish'd with bumish'd gold grapes, highly finish'd, with gold birds, most curiously chas'd 6l. 6s.
(注)これとは別のロットで、ペアの同型・同装飾の壺も売られている。
この壺は、ロココ調の影響が強いゴールドアンカー期のチェルシーにしては珍しく、端整な新古典派的特徴を備えている。新古典派への転換がゴールドアンカー期で既に始まっていたことを示す作品の一つとされている。ゴールドアンカー期の作例は以下のV&A美術館のサイトで見ることができる。
https://collections.vam.ac.uk/item/O335760/vase-chelsea-porcelain-factory/
https://collections.vam.ac.uk/item/O335761/vase-chelsea-porcelain-factory/
ゴールドアンカー期の作品は、上述のようにmazarine blue(すなわち釉薬下の濃紺)の地色上に金で鳥や昆虫が描かれ、さらには葡萄も金で覆われている(サテュロスのみ色絵で装飾)が、それを引き継いだダービーでは本作品のように上絵エナメルによるトルコブルーの地色が用いられ、サテュロスだけでなく葡萄もエナメルで彩色されている。しかし、1771年以降のダービーのオークション等のカタログにはこの壺は見当たらず、恐らく1770年代の早いうちに製造が終了した(壺の型番も割り当てられなかった)ものと思われる。(同様の経緯をたどったと思われる作品として、ダービー(D2-50)を参照。)
なお、Timothy Cliffordの研究によると、この壺のデザインは、もともとはフランスの画家Joseph Marie Vienが描いたもので、1760年に彼の妻によって版画出版されたものに拠っている。ただしVienのオリジナルデザインではこの壺の首はもっと短く、葡萄はなく代わりに花綱が描かれている。
高さ(Height):24cm
マーク:なし
Mark:None
参照文献(References):
-H.G. Bradley "Ceramics of Derbyshire 1750-1975" Item 19
-Timothy Clifford "Some English Ceramic Vases and Their Sources, Part 1" ECC Transactions Volume 10 Part 3 (1978) pp.170-171 and Plate 82
-J.V.G. Mallet "Chelsea Gold Anchor Vases, I: The Forms" ECC Transactions Volume 17 Part 1 (1999) pp.143-144 and fig.36
-Patricia F. Ferguson "'Vase Madness': Vases and the Antique Taste in British Ceramics, 1765-1790" A Taste for the Antique (ECC) pp.97-98 and Figs.25-27
(2024年8月掲載)